フリーランスの約7割が「収入の不安定さ」を課題として挙げています。この不安定さの大きな原因の一つが、案件ごとの収支を正確に把握できていないことです。個人事業主も同様の課題を抱えているケースが多く見られます。
「思ったより時間がかかり、実は赤字だった」という経験をお持ちの方も多いでしょう。収支が見えないまま案件を受け続けると、働いているのに収入が安定しない、という悪循環に陥ります。
工数管理を導入することで、案件ごとの利益率を正確に把握し、適正な価格設定が可能になります。この記事では、個人事業主にとっての工数管理の具体的なビジネス価値と、収支を改善し収入を安定させる実践的な方法を解説します。
個人事業主が直面する3つの収支課題
工数管理が必要な理由を理解するため、まず個人事業主が抱える実務課題を明確にします。
案件の収支が見えない
多くの個人事業主が「思ったより時間がかかった」と感じる最大の理由は、作業時間を記録していないことです。
例えば、Webデザイン案件で見積もり時に「3日で完成」と想定していたものが、実際には5日かかったとします。この場合、売上30万円でも、時給換算すると想定の6割まで下がり、実質的に赤字になる可能性があります。
作業時間を記録していなければ、この「時間超過」に気づくことすらできません。結果として、同じミスを繰り返し、収支が改善しないまま時間だけが過ぎていきます。
適正な価格設定ができない
過去のデータがないため、見積もりが「勘」や「相場感」に頼ることになります。この状態では、以下の2つの問題が発生します。
安く受けすぎる問題 実際の作業時間を把握していないため、必要な工数を見誤り、結果として時給換算で割に合わない価格で受注してしまいます。
高すぎて失注する問題
逆に、不安から高めに見積もりすぎて、競合に負けてしまうこともあります。
時間単価を意識できていないと、自分の労働価値を正しく評価できず、適正な価格設定ができません。
時間の使い方が把握できない
どの作業にどれだけ時間を使っているか分からないと、以下の問題が生じます。
- 非効率な作業に気づけない: 同じ作業を毎回ゼロから始めている
- 収益性の低い作業に時間を奪われている: 本来注力すべき高収益作業ができていない
- 時間配分の最適化ができない: 何にどれだけ時間を割くべきか判断できない
これらの課題を解決するのが、工数管理です。次のセクションでは、工数管理の基本を解説します。
工数管理とは何か?個人事業主が知るべき基本
工数管理の定義と、個人事業主にとっての意味を明確にします。
工数管理の定義
工数とは、「作業時間×人数」で表される作業量の単位です。
計算式
工数 = 作業時間 × 人数
個人事業主の場合は「人数=1人」なので、工数管理は主に「作業時間の記録と分析」を意味します。
単位は「人時(にんじ)」や「人日(にんにち)」で表されます。例えば、1人が8時間働いた場合は「8人時」または「1人日」となります。
企業と個人事業主の工数管理の違い
工数管理は企業でも個人事業主でも行われますが、目的が異なります。
| 比較項目 | 企業の工数管理 | 個人事業主の工数管理 |
|---|---|---|
| 主な目的 | チーム管理、人員配置の最適化 | 収支把握、適正価格の算出 |
| 管理対象 | 複数メンバーの作業時間 | 自分の作業時間のみ |
| 重視する指標 | プロジェクト進捗、予算達成率 | 時間単価、案件別利益率 |
個人事業主にとっての工数管理は、「自分のビジネスを数値で見える化し、収益を改善するツール」です。
個人事業主が工数管理で実現すること
個人事業主が工数管理を行う目的は、以下の3つに集約されます。
- ①収支の可視化 どの案件が利益を生み、どの案件が赤字かを明確にする
- ②適正価格の算出 過去データから必要な作業時間を予測し、正確な見積もりを作成する
- ③時間効率の改善 非効率な作業を特定し、収益性の高い作業に時間を割く
次のセクションでは、これらの目的を達成することで得られる具体的なビジネス価値を解説します。
個人事業主が工数管理で得られる4つのビジネス価値
工数管理が個人事業主のビジネスにもたらす具体的な成果を提示します。
案件ごとの利益率を正確に把握できる
工数管理により、実際の作業時間から人件費を算出できます。
計算方法
利益 = 売上 - 経費 - 人件費(時間単価 × 作業時間)
例えば、売上30万円のWebデザイン案件で、実働が60時間(時給5,000円換算)だった場合
- 人件費:5,000円 × 60時間 = 30万円
- 利益:30万円 - 0円(経費) - 30万円 = 0円
この例では、一見利益が出ているように見えた案件が、実は人件費を考慮すると利益ゼロだったことが判明します。
このように、案件ごとの「真の収益性」を把握することで、どの種類の案件を優先すべきか、どの案件は断るべきかを判断できます。
見積もり精度が向上し赤字を防げる
過去データから平均作業時間を算出することで、見積もりの精度が劇的に向上します。
例えば、「LP制作は平均20時間」「バナー制作は平均3時間」というデータが蓄積されれば、新規案件の見積もり時に以下の計算が可能になります。
見積もり計算例
- LP制作:20時間 × 時給5,000円 = 10万円
- バナー3点:3時間 × 3点 × 時給5,000円 = 4.5万円
- 合計:14.5万円(最低価格)
この最低価格を下回る案件は受けないという判断基準ができ、赤字案件を事前に避けられます。
また、クライアントとの価格交渉時にも、「この作業には平均20時間かかります」という根拠を示せるため、説得力が増します。
時間単価を意識した価格設定ができる
自分の時間単価を明確にすることで、「安く受けすぎる」ことを防げます。
時間単価の算出方法
時間単価 = 総収入 ÷ 総作業時間
例えば、月収40万円を稼ぎたい場合、月の稼働時間が160時間なら、時給2,500円が必要です。しかし、実際には非稼働時間(営業、事務作業など)も含めると、実稼働時間は100時間程度になることが多いため、時給4,000円以上で案件を受ける必要があります。
この基準を持つことで、「最低でも時給4,000円は確保したい」という明確な価格設定の軸ができます。
収益性の高い案件を見極められる
案件別の時間単価を比較することで、どの種類の案件が収益性が高いかを見極められます。
比較例
- 案件A(LP制作):売上15万円 ÷ 20時間 = 時給7,500円
- 案件B(バナー制作):売上2万円 ÷ 5時間 = 時給4,000円
- 案件C(コンサル):売上10万円 ÷ 8時間 = 時給12,500円
この分析から、コンサルティング案件が最も収益性が高いことが分かります。
このデータを基に、以下の戦略的判断が可能になります。
- コンサル案件を優先的に受ける
- バナー案件は値上げするか、断る
- LP制作は現状維持
このように、感覚ではなくデータに基づいた経営判断ができるようになります。
工数管理で収支を改善する実践ステップ
工数管理の具体的な実践方法を、4つのステップで解説します。
ステップ1|案件別に作業時間を記録する
まず、案件ごとにタスクを分けて作業時間を記録します。
記録のポイント
- 案件単位で記録(複数案件を混在させない)
- タスク別に記録(デザイン、コーディング、修正など)
- 5分単位でざっくりでOK(完璧を目指さない)
⠀記録例
- 案件:A社LP制作
- デザイン案作成:8時間
- 修正対応:4時間
- コーディング:6時間
- 合計:18時間
記録方法は、専用ツール、エクセル、紙のメモなど何でも構いません。重要なのは「継続すること」です。
ステップ2|時間単価を算出する
記録したデータから、自分の時間単価を算出します。
算出方法
時間単価 = 総収入 ÷ 総作業時間
例
- 1ヶ月の総収入:50万円
- 1ヶ月の総作業時間:120時間
- 時間単価:50万円 ÷ 120時間 = 4,167円
また、「希望する時間単価」も設定します。例えば、「最低でも時給5,000円は確保したい」という目標を持つことで、価格設定の基準ができます。
ステップ3|案件の利益率を分析する
案件ごとの利益率を算出し、収益性を評価します。
算出方法
利益率 =(売上 - 経費 - 人件費)÷ 売上 × 100
例
- 案件A:売上20万円、作業時間30時間、時給5,000円想定
- 人件費:5,000円 × 30時間 = 15万円
- 利益:20万円 - 0円 - 15万円 = 5万円
- 利益率:5万円 ÷ 20万円 × 100 = 25%
この分析により、どの案件が収益性が高いかを客観的に判断できます。
ステップ4|見積もりに反映する
過去データを基にした見積もりを作成します。
見積もり作成手順
1 平均作業時間を確認: 「LP制作は平均20時間」というデータを参照
2 時間単価を掛ける: 20時間 × 時給5,000円 = 10万円
3 余裕を持たせる: 想定外の修正に備えて+20%(12万円)
4 最終見積もり: 12万円以上で提示
このプロセスにより、赤字を防ぎながら、適正な価格で受注できます。
個人事業主に適した工数管理ツールの選び方
工数管理を始める際のツール選びの基準を解説します。
個人事業主が重視すべき3つの選定基準
個人事業主がツールを選ぶ際は、以下の3点を重視しましょう。
①シンプルで使いやすい(継続しやすさ)
複雑なツールは最初は楽しくても、継続できません。直感的に操作でき、記録に手間がかからないツールを選びましょう。
工数管理は「毎日続けること」が最も重要です。そのため、機能の豊富さよりも、シンプルさと使いやすさを優先すべきです。
②スマホ・PC同期可能(どこでも記録)
外出先でも記録できるよう、スマホアプリとPCが同期できるツールを選びましょう。
「後でまとめて記録しよう」と思っても、忘れてしまうことが多いため、作業終了時にすぐ記録できる環境が重要です。
③無料または低コスト(個人事業主の予算)
個人事業主の場合、まずは無料プランから始めることをおすすめします。
多くのツールは基本機能が無料で使えるため、まずは試してみて、必要に応じて有料プランを検討しましょう。
継続できるツールの詳しい選び方
継続できる工数管理ツールの詳しい選び方とおすすめツール5選については、こちらの記事で詳しく解説しています。
親記事では、以下の内容を扱っています。
- 工数管理が続かない3つの理由
- 継続しやすいツールの具体的な選び方
- 個人事業主向けおすすめツール5選の比較
- 習慣化するための実践的なテクニック
doup|継続しやすいタイムトラッキングツール
タイムトラッキング専門家の視点から、個人事業主に推奨できるツールとしてdoupがあります。
doupは、タスク管理と工数管理が一体化したツールで、「継続しやすい設計」を重視しています。シンプルな操作で作業時間を記録でき、案件別の集計も自動で行われます。
無料プランでも基本機能が充実しており、個人事業主が工数管理を始めるのに適しています。
工数管理を継続するための3つのコツ
工数管理を習慣化するための実践的なアドバイスを提示します。
完璧を目指さない
工数管理で最も重要なのは「継続すること」です。そのため、完璧を目指さないことが重要です。
5分単位のざっくりした記録で十分です。7割記録できていれば、傾向を把握するには十分なデータになります。
「今日は記録し忘れた」という日があっても、自分を責めずに翌日から再開しましょう。
記録のタイミングを固定する
記録を習慣化するには、タイミングを固定することが効果的です。
おすすめのタイミング
- 毎朝9時に前日の作業を記録
- 作業終了直後に記録
- 毎夕18時に記録
自分のリズムに合ったタイミングを見つけ、ルーティン化しましょう。
週次で振り返る
毎週10分、記録したデータを振り返る時間を作りましょう。
振り返りのポイント
- 今週はどの案件に時間を使ったか
- 想定より時間がかかった作業は何か
- 来週の時間配分はどうするか
この振り返りにより、工数管理のモチベーションが維持され、実際の業務改善につながります。
よくある質問
個人事業主の工数管理に関するよくある質問に回答します。
Q1: 個人事業主に工数管理は本当に必要ですか?
収支を正確に把握し、適正な価格設定を行いたいなら必要です。特に複数案件を抱える個人事業主には有効です。時間単価を意識することで、安く受けすぎることを防げます。
Q2: 工数管理と勤怠管理の違いは?
勤怠管理は労働時間の記録(何時から何時まで働いたか)、工数管理は作業内容別の時間記録(どの案件にどれだけ時間を使ったか)です。個人事業主は工数管理で収支を把握できます。
Q3: エクセルでもできますか?
可能ですが、入力の手間と集計の負担が大きくなります。専用ツールの方が記録が簡単で、自動集計もできるため継続しやすく効率的です。まずは無料ツールを試すことをおすすめします。
Q4: どのくらいで効果が出ますか?
1ヶ月で時間の使い方が見え始め、3ヶ月で収支改善の効果を実感できるケースが多いです。見積もり精度は2ヶ月目から向上し始めます。
Q5: 無料ツールで十分ですか?
個人利用なら無料プランで十分です。多くのツールは基本的な工数管理機能が無料で使えます。まずは無料から始めて、必要に応じて有料プランを検討しましょう。
Q6: 記録を忘れたらどうすればいいですか?
完璧を目指さず、7割記録できればOKです。記録漏れがあっても自分を責めないことが継続の秘訣です。翌日から再開すれば問題ありません。
Q7: フリーランスと個人事業主で違いはありますか?
税務上の違い(開業届の有無など)はありますが、工数管理の方法や目的に大きな違いはありません。どちらも収支把握と適正価格設定が重要です。
Q8: 工数管理のデメリットはありますか?
記録に時間がかかることです。ただし、シンプルなツールを選べば1日5分以内で済みます。この5分の投資で、月数万円の収支改善が見込めるため、費用対効果は十分高いと言えます。
まとめ
個人事業主にとって工数管理は、収支を可視化し、適正な価格設定を実現するための必須ツールです。
案件ごとの利益率を正確に把握することで、赤字案件を避け、収益性の高い案件に注力できます。見積もり精度が向上することで、「思ったより時間がかかった」という失敗を防げます。
工数管理を始める第一歩は、シンプルで継続しやすいツールを選ぶことです。まずは1週間、試してみましょう。完璧を目指さず、7割記録できれば十分です。
工数管理の詳しい継続方法とおすすめツールについてもご覧ください。また、継続しやすい設計のタイムトラッキングツールdoupの無料プランもお試しいただけます。